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第1492話 番外編百四十

作者: 花崎紬
「うわ、寒っ!」

臨は両腕を擦りながら姉を見た。

「姉さん、あの……」

臨が言い終わる前に、隼人が自分の上着を脱ぎ、ゆみに羽織らせた。

ゆみはぽかんとし、隼人を見上げた。

「もうすぐ11月だし、夜は冷えるから、風邪ひくなよ」

隼人は笑みを浮かべて言った。

「ありがとう」

ゆみは頬を少し赤らめ、隼人の上着をしっかりと握りながら礼を言った。

「堅苦しいことは言わなくていいさ」

隼人は言った。

「さ、帰ろう」

その光景に、臨は口元を抑えきれずに上げた。

(これ……もしかして?)

(姉さんが隼人兄さんの好意を受け入れたってことは、絶対に何かあるぞ!)

……

三日後。

帝都大学で舞踏会が開催された。

ゆみと紗子はドレスに身を包み、一緒に学校へ向かった。

「ゆみ、もう澈くんと和解したの?」

途中、紗子が尋ねた。

ゆみはもう澈のことを諦めると決めていたので、紗子が澈の話を出してもそれほど動じなかった。

「和解したよ。でも紗子ちゃん、私はもう彼とは、友達のままでいようと決めたわ」

ゆみは平静に答えた。

「14年も続いた想いなのに……」

紗子は驚いた。

「それがどういうの?」

ゆみは紗子の言葉を遮った。

「14年も好きでいたから、時間を無駄にしたと思って、諦めるのが惜しいって言いたいの?」

「そうよ。人生に14年なんて何回あるの?それに、両想いだったじゃない」

紗子は頷いた。

「自分で選択したの。好きだったから14年も待っていた、そこまでのことよ」

ゆみはそう説明するが、口調は少し諦めきれないものだった。

「じゃあ、澈くんとちゃんと話したの?」

紗子がさらに聞いた。

「話したよ」

ゆみは平静を装おうとしたが、目元が少し赤くなった。

「彼、すごく驚いてた。それに……諦める気もないみたい」

「ゆみ、本当にもう少し考えてみないの?」

紗子は心配そうに彼女を見た。

「考えない。二人とも暫くは辛くなるけど、これから毎日苦しみ続けるよりはまし」

ゆみは涙を浮かべながら笑った。

「未練は確かにあるけど、好きな人を巻き込んで苦しませたくない気持ちも本当なんだ」

「もう決めたなら、私は何も言わないよ」

紗子はため息をついた。

「うん」

ゆみは無理に笑顔を作った。

「紗子ちゃん、確かに私は澈くんのことが好きだ
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